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● 家政婦のミタ
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ダイヤモンド・オンライン 2011年11月28日
http://diamond.jp/articles/-/15007
「家政婦のミタ」の視聴率がキムタクをあっさり抜き去ったわけ
視聴率に表れないコンテクストを見つけるには?
藤田康人 [インテグレート代表取締役CEO]
■ゴールデンタイムの秋ドラマ:視聴率が語る今の世相
エンターテインメントに関するニュースを見ていて目に付いたのですが、松嶋菜々子が、冷徹な家政婦を演じて話題のドラマ「家政婦のミタ」(日本テレビ系)の第7話(11月23日放送)の平均視聴率が関東地区で23.5%を記録し、この秋のドラマの最高を更新したということです。
このドラマは、松嶋演じる笑わない家政婦、三田灯(みた・あかり)が、母親を亡くした4人の子どもと父親が家庭崩壊の危機に直面している阿須田家に派遣され、さまざまな問題に直面するというストーリーです。
いつも無表情で喜怒哀楽を一切表現せず、機械のような無機質な雰囲気を漂わせている謎めいた家政婦。
業務命令であれば、犯罪行為まで「承知しました」の一言で「何でも」やってしまう徹底ぶりで、家族からの「殺して」といった過激な要求までもとことん任務遂行していくこのドラマが、今お茶の間で大きな話題になっています。
母親の自殺、父親の浮気、いじめなどの現代社会の家庭崩壊というシリアスなテーマを扱いながらも、コミカルなタッチのミステリー仕立てでもある不思議な雰囲気で、先の展開がまったく読めないので、つい「来週もまた見たい」という気持ちになってしまいます。
一方、この秋のドラマで別の意味でマスコミで話題になっているのが、木村拓哉主演のTBS系ドラマ「南極大陸」です。
10月16日の初回放送で22.2%の最高視聴率をマークして大いに注目されながら、第2話は19.0%、第3話16.9%、第4話15.8%と落ち続け、第5話は13.2%と急落。
ネット上では「キムタク神話遂に崩壊」といった書き込みも見られましたが、第6話は19.1%まで再浮上しています。
このドラマのストーリーは、
「昭和30年代、敗戦からの復興を進める日本は、南極観測への参加を表明するが、他の参加国からは敗戦国であることを理由に罵倒される。
『日本が外国に頼らず、自分の足で立って生きていく姿を世界に示すんだ』と、主人公の倉持たちが参加実現に向け尽力するなか、国や企業は資金援助に後ろ向きで難航を極めた。
しかし、将来の夢と希望にあふれる子どもたちが、お小遣いを握りしめて募金をスタート。
この活動は全国各地へと広まり、いつしか南極観測は『国際社会復帰の一大プロジェクト』になる」
というものです。
「南極大陸」の制作費は20億ともいわれており、広告宣伝も異例の規模で展開されていました。
キャストには香川照之、柴田恭平、綾瀬はるか、堺雅人といった豪華な布陣を配し、人気絶頂の芦田愛菜ちゃんも出演するなど、TBSとしては万全の態勢で臨んだだけにこの視聴率の急低下は予想外だったようです。
■視聴率には表れないが:周りに多い「南極大陸」にはまる人
視聴率の話とは関係なく、私は「南極大陸」にすっかりはまっていて、毎週日曜日の夜9時をとても楽しみにしています。
私が思うこのドラマの魅力は、困難に挑む登場人物たちの熱い思いのこもった数々の言葉です。
それを聞いていると、なんだか自分の気持ちまでが高ぶってきてしまいます。
たとえば、柴田恭兵扮する白崎隊長の言葉。
(南極大陸にて)
白崎:
敗戦から10年。
われわれはいつも外国の戦勝国の足跡を辿ってきた。
しかし、 今日からは自らの足で歴史を歩んで行くんだ。
もはや、もはや、「戦後」ではない。
一同:……(涙ぐむ)
白崎:
われわれがこの南極に残す足跡は、5年後、10年後、いや、50年後の日本に必ず大きな意味をもたらすでしょう。
――この場面では思わず目頭が熱くなってしまいました。
今年の「3.11」で打ちひしがれた今の日本は、終戦後10年当時の日本とは状況はまったく異なりますが、国民が一丸となって困難に立ち向かっていくフェイズにあるという点では同じです。
このドラマを観ていると、震災から復興に向けて悪戦苦闘している今の私たちと南極大陸への思いを馳せる登場人物の姿がオーバーラップして見えてくる気がするのです。
困難に直面した時、人々は震災後のキーワードである「絆」という言葉に象徴されるように、仲間との一体感を感じることで自分を奮い立たせてがんばれるのではないでしょうか。
実際、私の周囲でも「南極大陸」にはまっている人が意外に多く、社内や取引先など、さまざまな場所でこのドラマが話題に上ります。
ところが、ネット上ではこの熱いやりとりを“過剰な演出”“くさいセリフ”などと酷評するコメントが多く見受けられます。
一方、好調の「家政婦のミタ」の番組ホームページの掲示板にも多くのコメントが寄せられていますが、その中で、このドラマの魅力を象徴的に表すものを一つ紹介します。
「すごく面白いですよねー!
人間のダメな部分を軽妙なタッチで描いているのが、とてもいいです。
何気にリアリティーもあって、ずばっと社会風刺しているのがすばらしい」
■二つのドラマ、視聴率の:“明暗”を分けたもの
現代の世相をとてもリアルなテーマに投影した「家政婦のミタ」。
一方、敗戦から復興する時期の日本の夢と希望がテーマの「南極大陸」。
二つのドラマの視聴率の“明暗”を分けているものは一体何なのでしょうか?
キャスティングやストーリー性等、ドラマの視聴率を左右するファクターはさまざまあると思いますが、そのなかの一つの大きな要素が、その時代の雰囲気とのマッチングです。
閉塞感が強く、政治も経済も混迷を極める今の日本においては、夢と希望を熱く語るドラマである「南極大陸」よりも、自分の身近にも起こりそうな、リアリティがあり、かつセンセーショナルなテーマを扱った「家政婦のミタ」のほうが多くの人々の興味関心を引き付けているのです。
とくに今の若い世代は、高度成長時代やバブル期の日本が熱気にあふれていた時代を経験することなく成長してきました。そんな彼らにとっては、将来への夢を熱く語る「南極大陸」の主人公たちの姿が、もしかしたら、非現実的で嘘っぽく見えてしまうのかもしれません。
それよりも不倫、自殺、いじめなどある意味“どぎつい”テーマに正面から取り組み、ターミネーターのようにクールな松嶋が演じる「家政婦のミタ」のキワモノ感が、この時代にはフィットしているのでしょう。
価値観が多様化した現代社会においては、以前のような統一的なマス文化が形成されにくく、マスメディアに頼ることなく、個人がいつでも自分の必要な情報を得ることができるようになった結果、多くの人々が一つの話題を共有するのはかえって難しくなりました。
デジタルマーケティングの時代を迎えて、新しいメディアや、テクノロジー、デバイス(情報機器)の登場が話題に上ることが多い最近のマーケティングの業界でも、やはり人の心を動かすのは時代の感覚に合ったストーリーと、コンテクスト(文脈)を持ったコンテンツであることが改めて見直されてきています。
そのコンテクスト(文脈)とは何なのか?
どうしたらそれを見つけられるのか?
この連載では「人のココロをつかむセオリー」と題して、広くマーケティングとコミュニケーションに関する話題を題材にしていこうと考えています。
今後の展開をお楽しみに。
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